Invent or Die - 未来の設計者たちへ:第三回 中島聡 x 松本徹三 書き起こし その5

2018年11月20日(火)に開催された「Invent or Die - 未来の設計者たちへ:第三回 中島聡 x 松本徹三」の書き起こしです。

ソフトウェアエンジニアである中島聡と、半世紀以上にわたり、世界のITビジネスの最先端で巨大企業の経営に携わってきた松本徹三氏が、「AIの真髄」に対する正しい理解にとどまらず、シンギュラリティに達した「究極のAI」に対し、私たち人間に突きつけられる向き合い方の選択についてまで、グローバルな観点から議論します。

© naonori kohira

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司会:それでは続きましてですね、お二人の対談に入って参りたいと思います。シンギュラリティソサエティの中島聡代表です。よろしくお願い致します。

中島:えーありがとうございます。私も結構AI関係のものはこっそりと読んでいるんですけど技術者なので、大体技術者が書いた本はこれなら私が書けるなとか思うんですけれど、宗教の話とか哲学の話が出てくるような松本さんの本は絶対書けないと思います。それで今日聞きたかったんですけど民主主義がね、私はアメリカに住んでいるんですけど、トランプが大統領になったところで民主主義はうまく働いていないと、まぁ民主主義プラス資本主義。そんな中で共産主義は共産主義で失敗しましたと。じゃあ答えはないのかって悩んでいたところに、松本さんのAIが政治家をやれば共産主義でいいというお話。ちょっと目から鱗というか、私がする発想じゃないと思ったのでちょっとその話を是非ともお願いしたいと思います。

松本:皆さんすでに感じられるとは思いますけど、民主主義は今本当に危機に直面していますよね。昔は王様による絶対王政でしたが、そこから二つに大きく流れが分かれました。ひとつは、新しく生まれた市民階級が中心になって、資本主義、自由経済をやっていこうという流れ。もうひとつはマルクスの唯物史観に基づく共産主義の流れでした。共産主義を標榜した人たちは「資本主義なんて上手くいくわけはない、民主主義も上手くいかない。プロレタリアが独裁して政治と経済を運営するのが唯一の正しい道だ」と考えたのです。「プロレタリア独裁」なんて言われると少し怖い気がしますが、よく考えてみると、今中島さんがおっしゃったように、最終的にはやはり共産主義が理想だと私は思うのです。

最近は、共産主義って何ですかって聞かれたら、うまく答えられる人は少ないでしょう。「何だか知らんけど、あれ失敗したんだよね。あいつらちょっと危ない奴だよね」と思っている人も多いでしょう。アメリカ人なんかは殆どそうですよ。コミュニズムと言った途端に身構えますからね。だけど、実際には「共産主義の理想」はこうなんです。「人間は能力によって働き、必要に応じて与えられる。」どう考えてみても、これが一番良いんじゃないかと思われます。その前段階である社会主義は「人間は能力によって働き、働きによって与えられる」というのが目標ですが、これじゃあまだ十分とはいえません。能力のある人はガンガン仕事するので裕福になり、そこには食料は余っている。しかし、残念ながら能力がなかったり、働く意欲が持てなかった人は、十分な食料を買うお金が稼げません。そうなると、一方では食べきれなかった食物が腐っているのに、一方では飢え死にが出るという馬鹿げたことがおこります。つまり、このルールはフェアかもしれないけど、理想ではないでしょう。理想は「食物が必要な人のところに食物が回ってくる」ことではないでしょうか? そんな社会があれば良いに決まってるじゃないかと、僕なんかも若い時は思ったのです。

それからもう一つ。如何にも暴力的な感じのする共産主義者が盛んに「平和」という言葉を口にするのに違和感を覚える人は多いと思うのですが、これにもそれなりの根拠があったのです。「世界中の労働者が団結して、世界中でプロレタリア独裁国家ができれば、資本家はどこにもいないから、貪欲に市場を求めて外国に出て行くことはなくなる。そうすると利害の衝突から戦争が起こるなんてこともなくなる」という理論なのです。これについても、一世代前の多くの若い人たちは成る程なと思いました。

ところが、皆さんご承知のように、現実には共産主義は上手くいかなかったのです。それは何故か? 二つの理由があります。一つは、人間は刺激がなければ働かないし、知恵も出てこないということです。だから集団農業というのもうまくいきませんでした。普通の農民なら、朝起きてみて霜が降りてきそうだったら、これは大変だとすっ飛んで行って必死になって対策を講じます。しかし、集団農場だと「俺は8時の出勤だから…」と悠然としていて、霜が降りようが降りまいが関係はありません。決められている通りにやるだけなのです。ですから、本来なら、欲得ずくではなく、全てを計画通りにやる共産主義経済の方が、経済は上手く回るだろうと思われていたのに、結果は正反対だったのです。結局、共産主義を標榜した人たちには、人間の本性を見抜けていなかったのですね。西ドイツと東ドイツを見ても、韓国と北朝鮮を見ても、資本主義の優位性は歴然でした。

そして、第二は、プロレタリアであれ何であれ、独裁となった途端に権力者は腐敗するということでした。独裁的な権力を握れば誰からも批判されないので、人間は好き放題をすることになります。「喜び組」を侍らせたいし、一流の酒を飲みたいし、人を顎で使いたいし、「あなたは偉大な人だ」と賞賛してもらいたい。出自がどうであろうと、人間というのはそういう性を持っているので仕方がないのです。ですから、元々は人と人との生活の格差をなくそうと考えて出発した共産主義の国では、権力を握った共産党員と一般人の間にこれまで以上に大きな格差ができてしまったのです。

しかし、考えてみてください。共産主義の現実が当初の理想とこんなにも違ったものになってしまったのは「人間がやったから」じゃないでしょうか。もしAIがやれば、結果は全然違ったものになっていたと思います。

AIは元々欲得やインセンティブのために働いているのではないのです。そのようにプログラムされているから働いているだけです。常に工夫して生産性を上げる。常に先読みして合理的な判断をする。そして、朝から晩まで24時間考え、24時間働く。これで別に苦痛もないし、遊んでいる人を羨むこともありません。こうなると経済は必ず良くなるしかありません。ですから、AIがやる計画経済は人間がやる資本主義よりもよくなるはずです。そして、この計画経済を運営する指導者も純粋で無欲ですから、絶対に腐敗はしません。「私は皆さんのためになる政治をしてくれと任されたのですから、そのようにやっているだけです」と言って淡々と仕事をします。偉そうにもしないし、賄賂もとりません。悪者に狙われても、厳重に守られた地下に格納されているので、暗殺もされません。

ですから、人間ではなくてAIが共産主義をやっていれば、現実の世界で共産主義が失敗した二つの原因が、二つとも消えていたはずなのです。こう考えていくと、一番悪いのは「人間がやる共産主義」。次にダメなのは「人間のやる民主主義・資本主義」。一番良いのは「AIがやる共産主義」。こういう事になりませんか? 尤も、こんなことは、アメリカ人の前で言うのは気をつけなきゃいけないですね。短略的に「お前は共産主義者か?」なんて言われて、胸倉を掴まれそうです。でも、突き詰めて考えていくと、どうしてもこういう結論になってしまう気がするのです。

さて、今の世相はどうでしょうか。何となく世界中で民主主義が行き詰まっているような気がしませんか? これまでは「まぁ何とかかんとか言ったって、やっぱり民主主義は守らなければね」というのがコンセンサスだったような気がします。チャーチルなんかも「民主主義ほど非効率なものはない。でも他の体制と比べれば一番マシだ」と言っていました。しかし、その自信が少しゆらいできたようなのです。

時あたかも、アメリカにはトランプのような人が出てきました。欧州ではポピュリスト政党が力を増しています。トランプはなぜ成功したのか? それは、政治家としては珍しく、初めて本音を語ったからではないでしょうか?今までの欧米の政治家は、よく言えば理想を追いかけてきたとも言えますが、悪く言えば綺麗事を語ってごまかしてきたところがあるように思います。それに対してトランプは平気で本音を語った。「あんた達メキシコ人は嫌いだろう? 嫌いだったら我々の国に入れなきゃ良いじゃないか」と、まあ、普通なら言い難い様なことを平気でいいました。しかし「そりゃそうだ」と思う人も結構いたのです。だから彼は大統領になれたのです。トランプのやり方は、こういう形で、民主主義のあまり見たくない本質を白日のもとに曝したとも言えます。

それからもう一つ、民主主義には大きな問題があります。例えばある政策で60%の人は幸せになるが、40%の人はとても不幸になるとします。民主主義は多数決ですから、60%の人に支持される政策が選ばれます。勝った多数派の人達は、負けた少数派の人達に同情して、政策を少し手直しするでしょうか? そんなことは絶対にしませんよ。「おぉ勝ったぞ!」と盛り上がり、40%の人達のことは徹底的に無視するでしょう。そうなるとどうなるでしょうか? 負けた少数派には恨みが残り、対立はますます激しくなるでしょう。こうして社会は分断されてしまいます。

資本主義もそうですね。資本主義は成熟してくればくるほど格差が激しくなる傾向があるようです。マルクスは「そうなると、虐げられた人たちは我慢できなくなって革命が起こる」と予言したのですが、実際には資本主義の中に自浄作用が働いて、独占禁止法とかいろいろな法律や制度を作ることによって資本家の強欲さが抑制され、そういう事態には至りませんでした。しかし、最近は、この点でも少し雲行きが怪しくなってきています。

ここで不思議なのは「資本主義と民主主義」の関係です。今のアメリカでは、1%の人が50%の富を握っていると言われていますが、民主主義だと投票は全員が1票なのですから、1%の人しか有利にならないような法律は、議会では通らないはずです。つまり、民主主義体制下で選挙権を持つ大多数の人達は、極端な格差をもたらすような政策に反対する政治家をどんどん議会に送り込む筈です。ところが、現実にはどうもそうはなっていない様です。それは何故なのでしょうか? それは、恐らくは、多くの人達が経済政策とは別な論点に目を奪われて投票しているからではないでしょうか? 目先の利益で釣られている様なこともあるかもしれません。要するに、民主主義はあまりうまく機能していない様なのです。だから、私は、AIに政治をやらせることによって、こういう現在の民主主義の問題点を克服したいのです。

中島:例えば言い方が共産主義って言葉を使うと嫌がる人がいるかもしれない。ただ、エッセンスの部分はAIが政治家をやった方がいいですよって話ですよね。

松本:そうです、そうです。それは政治。じゃあ経済はどうですか?

AIが神になる日――シンギュラリティーが人類を救う

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