自動車業界の近未来

シンギュラリティ・ソサエティの取り組むテーマの一つが「自動運転車と街」ですが、それは自動運転車の誕生が及ぼす影響が、自動車業界にとどまらず、公共交通機関、運輸業、道路や街などの社会インフラ全体、そして結果として人々のライフスタイルに大きな影響を与えると予測できるからです。

このインパクトは、パソコンやインターネット、スマートフォンの誕生が社会構造や私たちのライフスタイルに与えた影響に匹敵すると私は見ています。

そのすべてを把握するのはとても難しいので、まずは一番分かりやすい自動車業界の変化、それも3〜5年の近未来に絞って書いてみます。

自動車業界は、自動運転だけでなく、EVシフト(電気自動車へのシフト)、シェアリング・エコノミー(Uberのように、ユーザーのニーズに応じて自動車を提供するビジネス)の台頭、コネクティビティ(自動車のネットワーク・ノード化)などにさらされて激しい進化圧がかかっており、大きな転換期を迎えようとしています。

まずは電気自動車に向けた「EVシフト」ですが、この勢いはもはや止められず、水素自動車に力を入れていたトヨタやホンダも、電気自動車に力を入れざるを得なくなると思います。

水素を使うアイデアそのものは悪くないのですが、二つの致命的な欠点があります。

  • ガソリン車並みの航続距離を確保するために、タンクに高圧で詰めた水素を安全に燃やして使う仕組みは、現時点ではガソリン車や電気自動車と比べてはるかに規模が大きく、かつ高価

  • 消費者に使ってもらうためには、数多くの水素ステーションが必要だが、水素車が十分に普及するまでには莫大な投資は出来ないという「ニワトリと卵」状態を脱することができない

それに加え、Teslaが人々が電気自動車に抱いていた悪いイメージを一気に払拭してしまったこと、電気自動車の航続距離が十分実用的なところまで伸びてきたこと、充電インフラが一気に整い「ニワトリと卵」状態を脱してしまったことにより、電気自動車が消費者に受け入れられるようになり、相対的に水素車へシフトする理由が薄れてしまった、というのもあります。

ヨーロッパ各国がEVシフトに乗り気なのは、地球温暖化対策もありますが、適切な進化圧を自国の自動車産業に与えて育てようという意図もあり、それなりに成功すると思います。ドイツ製のディーゼル車が引き起こしたスキャンダルが、ドイツの自動車メーカーを待ったなしの状況に追い込んだのも、この動きを加速させました。

米国は、トランプ政権のために国としての地球温暖化対策が大きく後退しましたが、カリフォルニア州などが州単位でEVシフトを推し進め、それが良い意味での進化圧を日米の自動車メーカーに与えると思います(日本の都道府県とは違い、米国は各州が大きな力を持っています)。

とは言え、ここから3〜5年の間に最も大きな変化をするのは中国で、あっという間に各国を追い抜いて「EV先進国」になってしまう勢いで成長しています。結果として、既存の自動車メーカーにとって、EV市場での最大のライバルは、Teslaではなく、中国メーカーになる可能性が高いと私は見ています。

Tesla は、Model 3 の大量生産の課題さえ乗り超えることができれば(資金がショートしなければ)、しばらくの間(少なくとも中国メーカーが台頭してくるまでの間)は、世界のEV市場のリーダーであり続けるでしょう。最近になって、Elon Muskはサウジアラビアの政府系ファンドの資金を使って、Tesla社を非上場化すると宣言して、物議をかもしましたが、3〜5年以内には、Model Y(小型 SUV)や Tesla Pickup(小型トラック)も発売される予定だし、しばらくの間は話題にはこと欠かない、もっとも注目すべき自動車メーカーでい続けると思います。

EVシフトの一番の課題は、リチウムイオン電池に必要なリチウムやコバルトなどのレアメタルで、これが価格低下の足を引っ張る可能性は大きいと思います。その意味で、リチウムイオン電池に変わる蓄電池の開発が急務ですが、3〜5年以内に商用レベルで実用化というのは難しいと思います。レアメタルの争奪戦が国同士の戦争にまで発展し、それがEVシフトの足を引っ張る、という可能性も十分にあるので注意が必要です。

自動車業界におけるシェアリング・エコノミーは、米国では Uber に代表されるライド・シェア・サービス、日本ではパーク21のような簡易レンタカーという形で伸びています。それは、自動車が「所有するもの」から、「必要に応じて使うサービス」へと変化することを意味します。

米国のFordは、「自分たちは Mobility Service Company に生まれ変わる」と宣言しましたが、これは従来型のディーラーを通して自動車を消費者に販売するというハードウェア・ビジネスから、サービス・ビジネスへの脱却が必要だという経営陣の判断をしたことを意味します。最近、トヨタがハワイでディーラー・ネットワークを使った簡易レンタカービジネスをスタートしたのも、同じ進化圧の結果です。

自動運転が実用化されると、タクシーやUberの価格が3分の1になると予測されており、これがシェアリング・エコノミーへのシフトを加速することは明確です。さらに、そうなるとレンタカーとの敷居もなくなり、全てが「必要に応じて呼び出し、目的地で乗り捨てるロボット・タクシー・サービス」へと集約することになります。

自動運転に関しては、3〜5年以内に多くの自動車メーカーが自称レベル4(完全自動運転)の自動車をリリースすると思いますが、実際は、ほとんどが今の Tesla と同じレベル3(運転手の総合的アシスタント)を少し改良したレベルにとどまると私は思います。

逆に、既存の自動車メーカーと違って、ハードウェアを売ることよりも、モビリティ・サービスだけを提供することにフォーカスしている Uber や Waymo のような会社が、レベル4を飛び越して一気にレベル5(運転席のない自動運転車)を先に実用化してしまう可能性が高いと私は見ています。

法整備の方は、徐々に整い、一部の都市で限定した場所での完全自動運転車の運行が合法化されると思います。その時に、いきなり Uber のようなグローバル企業がそこで自動運転サービス(=ロボットタクシービジネス)を運営させてもらえるのか、それとも、まずは地元の事業者が地方自治体と組んでビジネスを立ち上げ、そういった企業が後に Uber などに買収される形で統合されるのかは、場所によってさまざまだと思います。

自動運転車は必ず公共交通機関に大きな影響を与えるので、各地方自治体は指をくわえて見ているのではなく、自らが積極的に公共交通機関の一部として自動運転車サービスを捉え、それぞれの地方にあった形のモビリティ・サービスを自ら設計するくらいの意気込みで取り組む必要があります。

 自動運転による長距離トラックの無人化は、技術的には十分に可能なレベルにはなっているとは思いますが、3〜5年以内にそれが法的・社会的に認められるとは思いません。

 私は、3年ほど前に、もし自分が総理大臣であれば「東京オリンピックの年からは、第二東名は自動運転の車しか通行してはいけない」という法律を作って進化圧をかける(「ナカジマノミクス」と呼びます)と宣言しました。本来ならば、そんな形の進化圧を政府がかけるべきタイミングに来ていると思います。

いずれにせよ、自動運転により、タクシー、バス、トラックの運転手の職が奪われるということは確実で、単に時間の問題です。米国では、労働者の15〜17%が「自動車の運転」を主たる業務としているそうです。さすがに3〜5年という時間軸では大した変化は起こらないと思いますが、10年〜20年という時間軸では、失業率などに大きな影響を与えると思います。

それよりも、自動運転の時代になると、都市のインフラを大きく変えないといけなくなるため、その歪みがここから3〜5年以内に明らかになり、先進的な地方自治体は、そんな時代に備えた法律を作り始める必要があります。

米国の多くの都市では、オフィスビルを建てる際には駐車場を設置することが義務づけられていますが、その法律が時代遅れになろうとしているのです。先を見る力のある米国のディベロッパーは、そんな先を見越して、ビルの地下駐車場を作るのを辞めているそうです。ビルの地下に駐車場を作ってしまうと、それを後からオフィススペースに改造しても借りてがいないからです。

自動運転向けのコンピュータに関しては、現在は Nvidia が圧倒的に強い立場に立って居ますが、所詮はグラフィックス処理用のプロセッサの流用なので、より機械学習に特化した、消費電力の小さい専用チップを作る会社が3〜5年以内に立場をひっくり返している可能性は十分にあると思います。ただし、Nvidia と対抗するにはツールとソフトウェアがとても重要なので、ベンチャー企業のままで戦うのではなく、(Intel に買収された Mobileye のように)より大きな企業に買収された上で、Nvidia と戦う必要があると思います。

Teslaは、これまで自動運転には Nvidia のチップを使ってきましたが、最近になって機械学習専用の自社製チップを設計したと発表しました。他の自動車メーカーがそんなことをしてくるとは考えにくいですが、「機械学習向けのチップは Nvidia で決まり」になったわけではない、良い証拠です。

世界中を走る自動車が目となって世界の3Dマップを作るという活動も、3〜5年以内に盛んになると思いますが、Tesla のように独自路線を走るところと、(ドイツの自動車会社が資本を提供している)Here のように複数の自動車会社にサービスとして提供するところがどう住み分けをするのかは、注目に値します。

結局、ここは自動運転技術と切っても切れない話なので、Tesla は独自路線を進めるでしょうし、日本の自動車メーカーもトヨタあたりが音頭をとって Here に対抗する3D地図会社を共同で作る、というのが理にかなっているように思えます。

コネクティビティ・アプリケーション(インターネットラジオやカーナビ)に関しては、Apple Car Play や SDL (Smart Device Link)のようなスマートフォン中心のアプローチを採用するメーカーと、Tesla や GM のように車載機を直接ネットとつないで、車載機上で走る専用アプリでドライバー向けのサービスを直接提供するメーカーの二系統に分かれると思います。

いずれにせよ、自動車運転により、自動車は「持つもの」から、「必要に応じて呼び出して使うもの」になるため、自動車に搭載されるソフトウェアやそのユーザーインターフェイスも、それを反映して今とはまったく別のものになると予想できます。

(このブログポストは、メルマガ「週刊 Life is beautiful」の記事に加筆したものです)