Invent or Die - 未来の設計者たちへ:第二回 中島聡 x 井上智洋 書き起こし その1

2018年10月19日(金)に開催された「Invent or Die - 未来の設計者たちへ:第二回 中島聡 x 井上智洋」の書き起こしです。

ソフトウェアエンジニアである中島聡と、マクロ経済学者の井上智洋氏(駒澤大学)が、既に始まっている情報技術の飛躍的な革新が、経済や産業、社会全体に及ぼす影響やインパクトに関して、テクノロジーと経済の両方の側面から議論しました。 

「実は AI 含む IT によって仕事を失った人がですね、どうも低所得層の方に移っちゃうっていうところで、全体的な所得の伸びと相殺されちゃってるっていうことなんですね。」

井上智洋氏: 私はですね、駒澤大学の経済学部の教員ということなので、経済学者ということになります。なんですけども、大学の時にですね 、computer Science の勉強をして、ゼミが人工知能に関するゼミだったのでその時にAIに関する知識を身に付けました。それから IT 企業に就職したんですけども、ちょっとエンジニアに向いてないなと思って3年弱くらいで辞めてしまいまして、中島さんとは逆で、あんまりエンジニア気質ではないということになります。

大学院から経済学を始めてですね、今の専門はマクロ経済学という事になります。デフレ不況からどうやったら脱却できるか、日本の経済成長率を高めるにはどうしたらいいのか、そんな事を研究する学問になんですけど、そっちが本業なんですが最近は副業でですね、経済学者の立場から人工知能について論じるという事をやっております。最近は、副業の方が忙しくなっていますが。2年前にですね、「人工知能と経済の未来」という本が出版しまして、下側が帯になってまして泰蔵さんの名前が私の名前より大きく書かれているんですね。本屋さんに行った方が、これを泰蔵さんの本だと勘違いして買ってくれる人が一杯居たらいいなと思いますね。

それで早速なんですが、最近ですね、人工知能が人々の仕事を奪うとか、奪わないといった事がいろいろ議論されているんですが、世界的に火付け役になった論文が、フライとオズボーンというオックスフォード大学の先生の「雇用の未来」という論文で、そこから日本人に馴染みのある職業で消える確率の高いものを並べてますけども、私正直いって10年、20年後これらの職業が無くなるとは思っていないんですね。そう言うとですね、「職業消滅しないんだ、良かった」と思う人がいるかも知れませんけども、世の中の行われている議論でちょっとおかしいところは、職業が無くなるのかどうかっていう議論してるんですね。無くなるのかどうかっていうのは余り論点ではなくて、『各職業において雇用がどれだけ減るか』っていうことなんですね。例えば7割も雇用が減っちゃったら、かなりその分野で生き延びるのは難しくなっていく訳です。どんな職業でも、いわば機械との競争に打ち勝って、ホスピタリティが高い、クリエイティビティが高いという事で生き残る人は出てくるかと思うんですが、そうでないとですね仕事がなくなっちゃうという可能性も私はあると思っています。仕事が失った人が、技術的失業というんですけども、失業した人が他の職業に転職するんですね。そういう事を経済学者は労働移動と言うんですが、転職できれば OK かと言うと、どうもアメリカの様子を見てるとそうでもないという話をしたいんですけども、アメリカで起きてることです。

低所得者は主に肉体労働に従事し、中間所得層は事務労働で、高所得者は頭の労働に従事という風に、今かなり単純化して考えますけども、今アメリカではこの事務労働の所の雇用がですね、かなり減っているという状況です。具体的にはコールセンターのスタッフ、経理係、それから旅行代理店のスタッフ、こんな感じのお仕事が減ってきています。それで仕事を失った人がですね、頭脳労働の方に行ければいいんですけども、そうじゃなく、その多くの人はですね、肉体労働の方に入ってしまって、具体的には介護のスタッフ、それから清掃員といったお仕事で、こういったお仕事は日本と同様に、労働需要が高いということで、そんな仕事に就く人が多いですけども、別に転職できればいいじゃないかと思うかもわからないんですが、その中間所得層にいる人が低所得層移ってしまうので、低賃金化しちゃうわけですね。

アメリカではですね、この緑の線を見て頂きたいんですけども、所得の中央値と言ってですね、99に人がいたら50番目の所得の人の所得ということで、その真ん中あたりの所得の人が今世紀入ってから全然ですね、所得伸びてないんですね。そういう状況があるのは、実は AI 含む IT によって仕事を失った人がですね、どうも低所得層の方に移っちゃうっていうところで、全体的な所得の伸びと相殺されちゃってるっていうことなんですね。だからと言って、私はここで AI とかITとか導入すべきじゃないと言ってる訳ではなくて、なるべく人々がこっちのですね、頭脳労働なり高所得の方のお仕事に就けるようなですね、教育を変えるとかですね仕組みを変えるって事も必要だと思ってます。

ただ、とは言え、みんながみんなその頭脳労働に向いてるとは限らないので、肉体労働の方に方にいっちゃって、低所得になっちゃっても、豊かさを享受できるような、そんな社会にしないといけないという風に思っています。究極的にはですね、あの所得分布が、かなりですね、歪というかですね、普通の職業の所得分布って、低所得層がちょっといて、中間所得層がボリュームが厚くて、高所得層が、金持ちいくらでもいるんですけども、まあ全体的には数は少ないという、大体こういう分布になっているんですね。それで、今でもあのクリエイティブ系のですね、職業では低所得層がめちゃくちゃ多いんですね。中間所得層が低所得層より少ないんですね。で、高所得層はさらに少ないんですけども。低所得層が一番のボリュームゾーンっていうのが、実はクリエイティブ系の職業ですね。だからあのミュージシャンの人とかですね、芸人さんとか思い浮かべていただければいいかと思うんですけども。芸人さんのほとんどっていうのは、年収10万円以下なんですよね。で、下手すると、年収マイナスって人もいます。なんでかって言うとですね、交通費とかが支給されないでですね、自腹で払ってるんですね。舞台に上がれば上がるほど、むしろお金が減っていくという人もいます。こっちを釣り鐘型と呼んで、こっちをロングテール型と呼んでるんですけども、中間所得層がポコって無くなっちゃってるわけですね。

だから、さっきの、このアメリカのですね、この中間所得層の没落っていうものが続くとですね、究極的にはこんなんなっちゃう、という話なんですね。こういう風にですね、 AI を含む IT のですね、発達っていうのは今後も避けられないと思っているんですけども、雇用が不安定になるとかですね、格差が広がるという問題も出てくる可能性はかなり高いと思っています。やっぱり、もっとみんな豊かになるような社会にするために、少なくともですね、最低限の所得は保証されないといけないだろうということで、最近はベーシックインカムについてですね、私も導入すべきだということを導入すべきだと主張しています。詳しくは、こちらの本に書いてあるんですね。興味持たれた方は、読んでいただければと思います。この後で、中島さんとの対談でベーシックインカムの話はかなりやるかと思います。