自動運転社会のひとつの形

私自身が自動車業界で仕事をしていることもあり、「自動車業界に訪れている大変化」だとか「自動運転が実現された時の社会のあり方」などを常日頃から考えているし、メルマガなどを通じてもアウトプットしています。

そんな中、明らかになってきたこともありますが(例えば、自動車メーカーが単なるメーカーのままでいたらコモディティ化されてしまう、など)、なかなかはっきりとした答えが見つからずに、モヤモヤとしているものもあります。

その中の一つが、「シェアリング・エコノミー」と「パーソナルな空間の両立」です。

人が自分の自家用車(ひと昔の言い方をすれば、マイカー)を持つ理由は色々ありますが、大きく分けると、

1. 財産である

2. ステータスシンボルである

3. いつでも好きな時に使える

4. パーソナルな空間を持てる

の4つになります。

一番目の「財産である」は、(車検代、保険料、駐車場代を含めると)今現在ですら怪しいものですが、自動運転+シェアリング・エコノミーの時代になると、まったく意味がなくなります。稼働率が桁違いに高くなるため、シェアした方が圧倒的に安いからです。

二番目の「ステータスシンボル」は文化的なものなので、ある程度は残ると思いますが、最終的には「馬を持つことができるぐらい金持ちだ」のような象徴的でしかないものになると思います。

三番目の「いつでも好きな時に使える」は便利さの話ですが、すでに(人間が運転する)Uber ですら自家用車よりも多くのシナリオで便利なことが証明されているので、自動運転+クラウド配車の時代になれば、便利さでもシェアした方が上回ることは明らかです。

私がモヤモヤと悩んでいたのは、四番目の「パーソナルな空間」でした。自動運転車に一人で乗ればプライバシーの問題は解決できるし、インフォテーメント(音楽やカーナビ)も技術でなんとか出来ますが、「不特定多数の人が座った汚れている可能性のあるシートに座らなければならない」という問題だけは解決しようがないので、答えを探していたのです。

それもあって、堀江さんが対談中に「でも、もし自動運転車が普及していけば、でっかいバスみたいなのを作って、今のお年寄りとか障害者の優先席みたいな場所を作って、ワイヤレス充電のスポットみたいにして、そこにガチャンとそのパーソナルモビリティがつながるようにして……。」と言ったとたんに、私の脳の中でそれまでバラバラだったパズルが一気に組み合わさったような感覚があり、続く「ひょっとしたら、パーソナルモビリティが普及したら、バスの中には椅子は要らないですよね。みんなが持ってるわけだからね。」という私のセリフにつながったのです。

堀江さんはとても頭の回転が良いので、すぐに私が言っていることを理解してくれて、そのまま話が発展しましたが、実はここで、上の「自動車のシェアリングにおけるパーソナル空間問題」を解決する大きなイノベーションのタネが生まれたと私は感じています。

分かりやすく言えば、堀江さんの頭の中には「電気自動車の充電問題は、電気自動車の『入れ子』で解決できる」というアイデアがあり、それが私の頭の中にあった「自動車のシェアリングにおけるパーソナル空間問題を解決したい」というモヤモヤ感と化学反応を起こして、「全員が(低速の)パーソナルモビリティで移動するようなり、そのままシェアリング自動車に乗り込めばパーソナル空間を提供できる」というイノベーションに結びついたのです。

ちなみに、ここで言うパーソナルモビリティとは、低速でしか移動できない軽量の電動車椅子のようなもので、Honda の Uni-cub やアイシンの ILY-A のようなものをイメージしてもらえば良いと思います(もちろん、もっと車椅子っぽいものでも結構だし、健康のために人力のものもあって良いと思います)。

 UNI-CUB

UNI-CUB

 ILY-A

ILY-A

誰もがこんなパーソナルモビリティ(以下PMと略)を持っており、かつ、それが自動運転車のシェアリング・ネットワークと繋がって入れば、PMに行き先を入れるだけで、近いところであればPM自身が自動運転で連れて行ってくれるし、中距離以上であれば、より大きな自動運転車を呼び出してくれて、それにPMごと乗り込んで行き先(もしくは行き先の近く)まで連れて行ってくれるのです。

行き先を指定する際に、時間優先、値段優先、プライバシー優先などの指定が出来るため、自分だけのプライベートな空間が欲しい人は「プライバシー優先」を指定すれば、一人乗りの小型の自動運転車を呼び出してくれて、自家用車と同じような「パーソナルな空間」を持つことができるのです。

「全員がパーソナルモビリティで移動する世界」というのはちょっと想像しにくいと思いますが、携帯電話が発明される前に「世界中の人がポケットに携帯電話を入れる時代が来る」ことが想像できなかったのと同じで、あまりにも斬新なアイデアは、今の社会やライフスタイルと違いすぎて、簡単には受け入れられないのです。

もちろん、この手の斬新なアイデアを実現するためには、数多くの障害を乗り越える必要があります。「そんなものは必要ない」「そんなものはSFの世界だ」「そんな先の問題よりも、当面の問題を解決すべき」というネガティブな反応をする人が大半な中で、資金を集め、人を集め、協力してくれる企業や自治体を見つけ、技術的・法的・経済的問題をひとつつづ解決していかなければならないのです。